アトピー性皮膚炎

【アトピー性皮膚炎の発症・経過】
 アトピー性皮膚炎は多病因性疾患で、アトピー素因(アレルギー体質)と皮膚のバリア機能の脆弱性(皮膚炎を起こしやすい弱い皮膚)、かゆみに対する過敏性(かゆみを感じやすい状態)に増悪因子(発汗、ストレス、ダニの多い環境、動物との接触など)が加わり発症・悪化します。

 一般的に乳幼児・小児期に発症し、加齢と共に症状が改善する方が多いものの、一部の患者さんでは成人型に移行します。加齢と共に患者数は減少する一方、学童期から大学生・20~30代まででは中等度から重症の割合が高くなることが知られており、これは、軽症の方は幼少時に治癒する傾向があり、中等症から重症の方は治りにくくむしろ加齢と共に重症度が増すことがある、ということかもしれません。


【アレルギー疾患としてのアトピー性皮膚炎】
 明らかな食物アレルギーがある場合(検査で数値が高いというだけではなく、実際に特定の食物を摂取したことにより症状の悪化が見られたことがある場合のみ)にはアレルゲン除去食は有用ですが、それ以外の場合には食事制限の必要はありません。むしろ、経口摂取により耐性を獲得し食物アレルギーが発症しにくくなる、という考えが近年広く受け入れられています。また、アトピー性皮膚炎家系であっても、妊娠授乳中に母親がアレルゲン除去食など食事制限をすることは子供のアトピー性皮膚炎の発症予防に有用ではないことが示されています。

 一方、ほこり、ダニ、ペットの毛、花粉などの環境アレルゲン(海外ではピーナッツの食べかすなどが問題になることもあるようです)によりアレルギーを発症しやすくなるといわれています。つまり、食べ物として摂取するとアレルギーになりにくいけど、鼻や目の粘膜あるいは掻破などで傷ついた皮膚面から抗原が入るとアレルギーになる、と理解すれば良いでしょう。ですから、室内環境では掃除をしっかりする(出来れば拭き掃除)、シャワーや清拭をしっかり行うなどの対策は有用です。


【アトピー性皮膚炎の診断】
 アトピー性皮膚炎の診断は、ある程度特定の部位(成人では眼囲、耳、首、肘、膝など)に生じる特徴的な湿疹が慢性的に繰り返すことを確認することによります。家族内発症や乳児湿疹がひどかったという病歴があると診断する上で参考になります。診断基準では、乳児で2ヶ月以上、その他では6ヶ月以上の経過で診断に至りますので、1ヶ月前から急に湿疹が出てきた場合などは、アトピー性皮膚炎の可能性もありますが、接触皮膚炎(かぶれ)、皮脂欠乏性湿疹(乾燥肌)、あせも、疥癬などの可能性も考慮して、検査・診断を進めることになります。また、皮膚リンパ腫や膠原病、魚鱗癬の皮膚症状もアトピー性皮膚炎と見分けがつきにくいことがありますので、特にステロイド外用剤などでの治療でも治りにくいようなときは、一度皮膚科専門医を受診されることが奨められます。

 血液検査は必須ではありませんが、診断や治療の有効性を測る指標となることがあります。血清IgE値、LDH値、好酸球数、血清TARC値、血清SCCA2値の他、増悪因子をチェックするための特異的IgE値(View39など)を測定することが有用です。


【アトピー性皮膚炎の治療―ステロイド外用剤】
 治療の中心はステロイド外用剤になります。局所の炎症を抑えて掻破行動を抑制し、かゆみの少ない皮膚に戻していく効果があります。保湿剤を併用することも、皮膚のバリア機能の改善に効果的です。年齢、皮膚症状の程度、皮疹の部位などに応じて、強さの違うステロイドを使い分けて皮膚症状をコントロールします。就寝時の掻破を抑えるために、あるいはじんましん(コリン性じんましん)が合併している場合などにも、抗アレルギー剤の内服が効果的な場合があります。

 ステロイド外用剤の長期的な副作用として、皮膚の菲薄化や毛細血管の拡張が見られます。また、目の周りに使用した場合などは白内障・緑内障のリスク因子ともなり得ます。副作用をできるだけ抑えるために、適切な強さのステロイドを医師の指示を守って使用することが必要です。そのために定期的な受診を考慮して頂くと良いでしょう。長期間にわたりかなり多量のステロイドを外用した場合には、副腎抑制をはじめ全身的な副作用も生じることがありますが、近年では後述のように効果的な内服薬や注射剤が利用できるようになったため、全身的な副作用を考慮するほど多量のステロイド外用剤を使用することは少なくなってきたかもしれません。


【アトピー性皮膚炎の治療―紫外線】
 ステロイド外用剤のほかに紫外線療法も保険適応となっており効果的です。当院でも全身照射型のナローバンド照射機器を置いており、増悪時などには週1~2回程度、落ち着いた状態になれば2~4週間程度の間隔を開けて紫外線治療を行っています。小児のほか閉所恐怖症や日光過敏の方には使用できませんが、症状が悪化したときに少し頻繁に通院することが可能であれば考慮しても良い治療かと思います。


【アトピー性皮膚炎の治療―免疫抑制剤外用・プロアクティブ療法】
 ステロイド以外の外用剤には、免疫抑制剤の外用剤があります。現在タクロリムス軟膏(プロトピック)、デルゴシチニブ軟膏(コレクチム)、ジファミラスト軟膏(モイゼルト)の3種類があります。それぞれ一長一短がありますが、首や顔面、特に目の周りなど、副作用を考慮するとステロイド外用剤を長期間しにくい部位には、これらの外用剤が治療の中心になります。
 また、症状の悪化しやすい場所(首、肘、ひざなど)には、症状の落ち着いている状態でも定期的に外用剤を塗布しておくプロアクティブ療法が行われることがあります。プロアクティブ療法により不快なそう痒感を未然に防ぎ、結果的に治療薬の使用量が抑えられることもあります。プロアクティブ療法にも免疫抑制剤の外用剤は有効な治療選択肢になります。


【アトピー性皮膚炎の治療―デュピクセント】
 近年特に注目されているのは、炎症反応を抑制するデュピルマブ(デュピクセント)という注射剤です。2018年からアトピー性皮膚炎の治療薬として認可されました。アトピー性皮膚炎を引き起こすアレルギー反応の要となっているIL-4とIL13という因子をブロックする薬剤で、2週間に1回の注射で症状をコントロールします。慣れてくれば自宅で自己注射して頂けます。効果と安全性が高く、劇的に症状を改善させる可能性のある薬剤ですが、使用できるのは重症のアトピー性皮膚炎の方で通常の治療で十分コントロール出来ない症状の方に限られます。また、薬剤価格もかなり高価で、3割負担の方で1ヶ月数万円になります。


【アトピー性皮膚炎の治療―JAK阻害剤】
 その他、免疫・炎症反応を抑制するJAK阻害剤という内服薬も近年認可され、こちらも重症のアトピー性皮膚炎に適応になりました。バリシチニブ(オルミエント)は2017年、ウパダシチニブ(リンヴォック)、アブロシチニブ(サイバインコ)は2021年からアトピー性皮膚炎に対して使用されています。どの薬剤でも使用開始にあたっては免疫抑制の副作用があることから、胸部レントゲン検査や血液検査が必須となります。注射での治療に抵抗がある方はデュピクセントよりもJAK阻害剤を選択されることが多いです。こちらの薬剤も効果が高い薬剤ですが、デュピクセントと同様に高価です。