【疾患としての多汗】
発汗は体温調節のために大切な機能の一つです。発汗により体温を下げて正常な生体機能を保っています。しかし、過剰な発汗は見た目に支障を与えたり、手の多汗は事務作業の妨げとなったりするなど、社会生活を送る際の障害となることもあります。また、過剰に発汗していることを意識することで、さらに精神的な発汗が増強することも、悩みを増強させる要因です。
その一方で、根本的な対処が難しいことや、社会的にあまり疾患として認識されていないこともあり、これまで発汗の悩みを持つ方が医療機関を受診するということは少なかったかもしれません。
【ワキ汗・手汗の治療】
2020年に原発性腋窩多汗症(いわゆるワキ汗)に対する外用治療薬(エクロック)が保険適応になり、2022年には使い切りワイプタイプの製剤(ラピフォート)も保険適応になるなど、ワキ汗に対する治療選択肢が生まれました。これらの製剤は、ワキのエクリン腺と呼ばれる発汗部位で、交感神経から汗腺に刺激を与えるアセチルコリンの働きを抑える働き(抗コリン作用)により発汗を減らします。主な副作用は外用した場所のかゆみ・皮膚炎、口の渇き、目の乾き、排尿異常などで、閉塞隅角緑内障や前立腺肥大による排尿障害のある方には処方出来ません。
原発性手掌多汗症(手汗)に対しては、2023年6月にアポハイドローションが保険適応となり、手汗に対する治療が出来るようになりました。これまではアルミニウム製剤やイオントフォレーシスなどが用いられていましたが、これからはワキ汗を抑える薬剤と同様の作用機序で、手掌の多汗に効果的な薬剤が医療機関で処方出来ます。
【ワキ汗・手汗以外の多汗治療】
従来から使用されているアルミニウム製剤などの制汗剤の利用が第一選択になります。硫酸アルミニウムを含む制汗剤のD-BarやD-tubeは当院でも(保険診療外)ご購入いただけますが、塩化アルミニウム製剤の処方(院内・院外とも)は行っておりません。
顔面、体幹の多汗には抗コリン作用をもった内服薬が使用される場合もあります。プロ・バンサインという薬品が多汗症治療薬として保険適応があり、当院でも処方可能です。原発性腋窩多汗症に使用される外用薬と同様の副作用があり、外用薬と比べて副作用の頻度は高くなります。
【その他の多汗治療】
当院では行っておりませんが、ボトックス注射もワキ汗に対する保険適応があります。ボトックス注射は手の多汗症治療にも一部の専門的な施設で保険適応外の治療として選択されることもあります。その他、星状神経節ブロックや手術により交感神経を遮断する方法などが選択されることもあります。